「りんはさ、どうやって死にたい?」 「難しいな……」 眠れないからドライブに行こう!と突然言い出したすいを車にのせてキラキラ光る街をひたすらに走る。すいは靴を脱ぎ散らかして両足をシートの上にのせて外をぼんやり眺めている。周りはこんなにも明るくて眩しいのにその光は私たちを無視してすり抜けているように感じる。きっと私たちにはもう光を反射するだけの存在を保つ力すらない。 「すいはね、りんと一緒に死にたい」 「いいよ。一緒に死のう」 口癖のようにことあるたびに繰り返すやり取り。自分を置いて死なないように、自分にも相手にも言い聞かせるように。キラキラ光る街を走る。何度繰り返したのだろう。何度繰り返せるのだろう。今だけでいい。今があればいい。今だけを生きてきた。過去も未来も苦しいだけだ。何も感じない。何も感じることができない。 「海がいいと思うの。すい海好きなんだよね〜」 「ふむ、良いかもしれない」 私はすいと一緒に死ねるのならなんでも良い。すいが私と死んでくれることが嬉しい。すいと一緒に死ねることが嬉しい。本当にそれだけ。すいのことが大好きで、すいのことだけがずっと大好き。一人で生きる勇気も一人で死ぬ勇気もない私に勇気をくれる。すいと一緒にいれば大丈夫。全部大丈夫。 「りんは理想の死に方とかないの?」 「私はすいと死ねればそれでいいよ」 「え〜?うへへーそうかーうふふー」 すごく嬉しそうな顔をするすいを見て幸せな気持ちになる。満たされるという感覚。すいと出会うまで知らなかった感覚。何を見ても何を聞いてもどこにいても何をしてもなにも感じなかった。感じ取れなかった。でもすいは、すいだけはそうじゃない。大好き。この大好きという気持ちはすいといる時にだけある。この気持ちは私とすいだけのもの。世界で1番特別な気持ち、感覚。大好きだ。本当に世界で1番大好きだ。大好きだから一緒に死にたい。自分でもよく分からないなと思う。全く論理的な思考ではない感情的なもの。それが嬉しい。すいにだけは感情的でいられる。なにも感じなかった無の世界にすいが来てくれた。満たされた。満たされたから死ぬ。救われたから死ぬ。これ以上なんて必要ない。
私たちは先のことを考えることが苦手だ。ずっと将来が苦しかった。いつかやってくるそれが苦しかった。やりたい事もなりたいものも何もないのに、どうして生きていくのか。何も感じない。何も感じないから苦しい。昔からそうだった。何も感じない。痛みも味も、心も感情もなにも感じなかった。全部が薄くて自分のことじゃないみたいで、自分のことすら他人事のようだった。目の前で人が怪我したって、死んだって、なにも感じない。あるのは空虚。孤独。繋がることができない。同じように感じることができない。私の居場所はここではない。ここにはない。なにも感じない。息ができない。何も感じないから。何を吸えばいいのかどうやって吐けばいいのかが分からない。何を感じないから。好きでこうなったんじゃないのに。好きで生まれてきたんじゃないのに。どうしていいのか分からない。どうしたらいいのか分からない。楽になりたい。楽ってなんだろう。どうしたら楽になれるんだろう。苦しい。楽ってどんな感覚なんだろう。息ができない。手が震える。苦しい。助けてほしい。ずっと助けてほしかった。ひとりぼっちだ。何も感じない。どこに手を伸ばしたらいいんだ?手?手ってなんだろう。私ってなんだ。輪郭が分からなくなる。怖い。死ぬのが怖い。すいがいなくなることが怖い。感覚がない。何もない。私にはなにもない。誰かに、何かに、何でもいいから。私がこれまでしてきたことは何になる?何もかもなくなる。なにもない。手が震える。手が触れる。すい。すいだ。すいの手が私の手に触れている。もう怖くない。怖いけど大丈夫。すいがいるから大丈夫。すいのことだけを考える。大丈夫。 「すいやっぱり死ぬの怖いよ」 「うん」 「だからさ、りん、一緒に死のうね」 「うん」 街はキラキラ光る。明るくて眩しくて私たちを照らさない光。あるのは孤独。ただ、ひとりぼっちではないという感覚。感覚がある。光は私たちを照らさない。反射できるほどの存在はもうない。手を繋ぐ。輪郭をなぞる。ここまでが私。私とはなんだ。すいがいる。すい、すいって誰だろう。私じゃないすい。すいじゃない私。りん。私はりん。孤独だ。これが、孤独。ひとりで生きていても誰かと生きていても孤独。私たちはきっとずっとひとりぼっち。でも、すいがいるから大丈夫。もうひとりぼっちじゃない。手を繋ぐ。隣にいる。もうひとりぼっちじゃない。寂しくない。苦しくない。全部大丈夫。すいがいるから大丈夫。 「今度さ、水族館行こう。ペンギン見たいな」 「うん……絶対いこう」 死ぬのは怖い。ただそれ以上に生きることが怖い。苦しい。一人で生きる勇気も一人で死ぬ勇気もない私たちは、ほんの少しの勇気を持ち寄って今をなんとか生きている。死ぬのは怖い。だから少しだけ頑張って明日のことを考える。少しだけ頑張って先のことを考える。まだ死なないために。もうひとりぼっちじゃないから。すいがいて良かった。すいが私じゃなくて良かった。ひとりぼっちじゃない。孤独じゃない。苦しくない。何も見ないようにして、何も考えないようにして。ただすいだけを見る。すいのことだけを考える。すい、大好きだよ。世界ですいだけが大好き。私の世界にはすいだけがいればいい。ずっとふたりでいられればいい。だから、一緒に死のうね。すいが世界で一番大好き。