リンファーデン。 彼女はきっと太陽だった。 いや、実際彼女は本当に太陽だったのだ。私たちが生きる世界を照らす太陽。彼女が眠りについて世界は光を失った。あらゆる星は姿を消した。彼女がみんな夢の世界に連れて行ってしまったのだろう。

私たちの太陽はもう夢を見ない。 しんでしまったからだ。私たちの太陽は夢も見ない深い深い長い長い眠りについている。うまれる前に戻って、それからずっと眠っている。今もずっと眠っている。 自分は今も彼女の夢をみる。 太陽が照らす草原。あたたかな光。あなたの笑顔。笑顔。リンファーデンはいつも笑顔だった。だから太陽だった。あなたが笑顔を諦めたから世界は太陽を失った。昼も夜もなくなってしまった。曇天。暗い空。空。空っぽの世界。 あなたがいない世界なんてどうでもいいとそう思っている。 あなたが好きだったひとたちを自分も愛しようと思った。あなたに託されたものを大切にしてみようと思った。 あなたのことを知りたかった。少しでもあなたに近づきたかった。

エフタルは今も泣いている。自分は今も悲しみが分からない。 あなたの笑顔を覚えている。あなたのことだけを覚えている。考えている。 自分は今も分からない。あなたのこと。

あなたに託されたものを大切に思うようになって、私はようやく感情を知った。 初めて感じた感情は、悲しさ、そして寂しさだった。でも世界は空っぽだ。もう遅い。 きっとリンファーデンは空っぽだったんだなとぼんやり思った。でもやっぱりもう遅いんだ。あなたはもうどこにもいない。あなたはもう眠っている。眠るあなたを見る。明滅する光。種。私たちの生まれる前の姿。生まれる前に戻って、2度とうまれないために眠っている。右目に触れる。リンファーデンの一部。あなたがここに生きていた証。そっと触れる。触られた感覚はない。私の一部ではないから。私の体に入っているただの異物。つめたくてあたたかい。私はどうしようもなく悲しくなった。嗚咽が口から漏れる。息がつまる。立っていられなくてその場に座り込む。風が吹く。あなたがいない世界はこんなにもつめたい。雲が空を覆い隠す。薄暗い世界。太陽のない世界。あなたがいない世界。あなたがいなくなってつめたさを知った。あたたかさを、私に光を教えてくれたのはリンファーデン、あなただった。リンファーデン。口から音が出る。喉が鳴る。意味のない音、伝わらない言葉。全部全部どうでもいい。どうでもいいもの。そんなものに価値はない。あなたがいない世界に価値がない。あなたが愛そうとした世界に価値がない。思えない。分からない。分からない。あなたがいなくなったのに世界は何も変わらない。何も変わらない。 あなたがくれた偽物の瞳から涙は流れない。自分は悲しみが分からない。涙が出ない。泣くことができない。同じように悲しみを感じない、涙を流すことができない存在は誰かと一緒にいることが出来るだろうか。同じように感じられない誰かと本当に一緒にいることが出来るのだろうか。分からない。分かり合えない。私たちはきっとずっと分からない。

リンファーデン、あなたの笑顔の意味を私は今も知らない。 ずっと知らないままでいい。意味も価値もなくていい。そんなもの自分たちには必要ない。リンファーデンがいない世界で生きていた。ずっと生きていた。あなたがいない世界。あなたがいた世界。私がいる世界。私たちが愛そうとした世界。大切な世界。生きている。私は今も生きている。生きていける、と思った。あなたが生きていたことも、私の思い出も、喜びも楽しさも嬉しさも、なにも失われない。なにひとつ失われない。そういう世界。あたたかい世界。ここには全てがある。リンファーデン、あなたももちろんここにある。きっとずっとある。生きていけると思った。あなたが生きていた世界で、あなたがくれた感情と思い出と、私が見つけた大切なものと、生きていけると思った。なにひとつ失われない。全部、全部一緒にいる。一緒に生きている。一緒に生きることができる。 私たちは自由だ。私たちはどこにでも行ける、何にでもなれる。意味や価値に意味も価値もない。そんなものあってもなくても私たちは私たちだ。なにも変わらない。

リンファーデン、今もあなたを夢に見る。 自分は今も知らない。あなたがみる夢を。 リンファーデン。あなたは私の太陽だ。今も昔も、これからも。きっとずっと変わらない。 リンファーデン、今もあなたを忘れられない。 今はもう、寂しくても大丈夫な気がしている。 リンファーデン、あなたがいない世界で私は今もあなたを夢に見る。 リンファーデン、君がみない夢を自分だけがみている。 きっとずっと幸せな夢だ。なにも変わらない。

種が花になる。花は風に吹かれて飛んでいく。世界からようやく解き放たれていく。 光は空に浮かんで星になる。あるべき姿に変わっていく、かえっていく。 世界も私たちも、ようやく落ち着く場所に、あるべき形になる。これでいいんだ。 ようやく安心できた気がした。 泣いてしまいそうだ。 安心して目を閉じる。光が遠くに見える。眠りたいと思った。このまま眠って、世界と溶け合って全てを見ていられたらどれほど幸せだろう。 暗闇に身を預ける。落ちていく。光が見える。あたたかい光につつまれている。私はこの光を知っている。このあたたかさを知っている。心にあたたかさが伝わる。満ちていく。安心、そして、しあわせ。とてもあたたかかった。それに意味も価値もないことを知っている。ここにはなにもない。ただ、あたたかさだけがある。私の存在の全部を包み込んでなだめている。うまれる前のあたたかさ。大好きな世界と溶け合っている安心感。とても幸せだと思った。 目を開ける。光に手を伸ばす。手は空を切る。届かない。口を開く。息を吸う。何もでてこない。伝わらない。意味のない音、伝わらない言葉。全部全部どうでもいい。どうでもいいもの。 それでも伝えたいこと。 諦められるはずがない。諦めたくない。 手を伸ばす。私は叫ぶ。名前を呼ぶ。 手は光を、空を切って、それでも、

「リンファーデン!」 光に包まれる。目を開く、手を、 あたたかいものが手に触れる。リンファーデンがそこにいた。 ようやく届いた。あたたかい手。笑顔。 「リズ」 視界が滲む。涙が出そうなくらい嬉しかった。 自分は悲しみが分からない。涙が出ない。泣くことができない。 だから私もあなたもずっと笑っていた。同じように悲しみを感じない、涙を流すことができない存在が誰かと一緒にいることが出来るだろうか。分からない。だけど諦めたくなかった。楽しさや喜びを一緒に感じたかった。一緒に楽しい時を過ごしたかった。喜びを分かち合いたかった。君と一緒に悲しめない分、君に明るい気持ちを少しでもわけてあげたかった。 涙が出そうだ。こんなにも世界が、そこにいる君のことが大好きなんだ。大好きで大切なんだ。だから幸せになって欲しかった。笑顔になって欲しかった。生きていて良かったって、うまれてきて良かったって、少しでも思って欲しかった。あなたがいない価値も意味もない世界。それでも私はそれが大好きだった。そこに生きるものが全部大好きだった。今もずっと変わらない。それだけはずっときっと変わらない。

光に包まれる。少しづつ手が離れていく。私たちは笑っている。きっともう二度と会えないのだろう。それでも私たちは笑っていた。私たちの願いは、きっと叶う。

叶った願いが星になる。私はそれを見ている。とてもきれいだと思った。手を伸ばす。掴めない、触れられない。だけどもう大丈夫だった。寂しくても悲しくても大丈夫。私は生きていける。

おやすみなさい、きっとずっと、さようなら。

リンファーデン、あなたがなにより大好きだよ。