「カイム、どう?この世界はあなたのためにつくったの!」 とっておきの宝物を見せるように笑顔で手を広げるネク。 「カイムが好きなものが分からなかったからたくさん用意してみたの!」 照れくさそうに笑ってゆっくりこちらに近づく。 「ね、あなたの好きなものを教えてちょうだい?」 俺は君がつくった世界、その全てが大好きで、 「カイムのこと、たくさん知りたいの」 君のことがなによりも大切で大好きで、そんな君がつくった世界はこんなにもきれいで素敵で、 「カイム、あなたはもうひとりぼっちじゃないのよ」 ネクは優しい笑顔で俺の前に立つ。俺はネクの笑顔が大好きだった。今もずっと大好きだ。 ネクの手が俺の手に触れる。あたたかい、と思った 「だから、もうひとりで泣かないで」 そう言って、俺をそっと抱きしめる。 「カイム、大好きよ。世界でいちばん大切で特別で大好き」 俺なんかがこんなにもきれいで素敵で完璧なネクに触れてもいいのだろうか、とためらう。だけどひとりで泣いていたのはネクもおなじだ。俺はずっとそれを見ていた。見ているだけはつらい。俺にはなにもなかった。だからなにも出来なかった。君を抱きしめるための腕がない、君を見るための目がない。涙をぬぐうための指がない、君に近づくための足がない、君を守るための体がない、力がない。君に名乗るための名前も、自分もない。俺たちはずっとひとりぼっちだった。近くでくるくると回っているだけのちいさな歯車。俺はネクに泣いてほしくない。ネクが悲しそうだと俺も悲しい、苦しそうだと俺も苦しい。ネクに笑顔でいて欲しい。ネクが笑うと俺も嬉しい。ネクが幸せなら俺は幸せ。それが俺の幸せ。ネクの幸せが俺の幸せ。ずっとずっと、幸せと安寧だけが続いてほしい。苦しいことも悲しいことも怖いことも全部俺が引き受けるから、だからずっと笑っていて欲しい。 「ネク、俺はお前のことが大好きだ。君がつくった世界ぜんぶが大好き。でも、それ以上に、俺はどうしようもなくネクの事が大切で特別で大好きだ。ずっと、一緒にいてネクのことをたくさん知りたい。好きなことも嫌いなことも、ぜんぶぜんぶ知りたい。だからネク」
ネクは微笑む。俺を見る。 「ええ、カイム」 今は君を抱きしめるための腕も、君を見る為の目も、涙をぬぐうための指も、近づくための足も、守るための体も力も、名前も俺も、全部ある。ネクが全部くれた。俺のすべてはネクのものだ。だから、大丈夫。 俺はネクを抱きしめる。涙をぬぐう。もう少しだけ君に近づく。君を守りたい、俺として、カイムとして君と話したい。知りたいこと、話したいことがまだたくさんあるんだ。関わる、ということは壊すということだ。それはとても苦しくて痛くて怖い。でも君がひとりで泣いているよりも、ずっといいと思った。君のことが大好きだから。
ネクはもうひとりぼっちじゃない。隣には一緒に涙を流し、ぬぐってくれるひとがいる。喜びを、楽しみを分かち合うひとがいる。日々の生活を共にすごすひとがいる。本音でぶつかり合えるひとがいる。ネクの周りにはたくさんのひとがいる。みんなネクのことを大切に思っている。ネクも大切に思っている。 だから、もう大丈夫。俺がいなくても大丈夫。 ネクは俺の為に世界をつくった。そして、それが君の苦しみの原因だった。俺がいなくなった所でなにも変わらないだろう。もしかしたら、ネクは世界を本当に壊してしまうかもしれない。でも、それでもいいと思える。俺の大好きなネク。世界でいちばん大切なネク。俺はこの期に及んで君にまた会いたいと願っている。君のことが大好きなんだ。願いでできた世界。君に会いたいという願いでできた世界。なにひとつ後悔なんてしていない。誰も何も悪くない。ネクがつくったきれいで素敵で完璧ですべてが正しい、すべてがある世界。俺はそこにいるただひとつの間違い。俺だけがネクじゃない、俺だけがきれいじゃない。だからネク、俺は君の世界にいてはいけないんだ。だから、さようならをしないと。きれいじゃない俺を大切にしてくれて、大好きでいてくれて、愛してくれてありがとう。あたたかさをくれてありがとう。たくさんの世界を教えてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。ずっとずっと幸せだった。君に会えてよかった。君がひとりで泣いていなくてよかった。たくさんの思い出をありがとう。やっぱり俺はネクのことがどうしようもなく大好きみたいだ。心がドキドキする、ネクのことを考えただけであたたかくなる、安心する、幸せになる。だから、また君に会いたいと願ってしまう。ネク、俺はぜんぶ間違っている、きれいじゃない、きれいじゃない。それでも君が俺にまた出会うことを願ってくれるなら、その為に世界を壊してしまうのなら、俺はそれがとても、どうしようもなく、嬉しいんだ。 愛する、ということは壊すということだ。俺たちはわかり合う為に傷つけ合う。傷ついた自分のからだに君の欠片を埋め込む。君のからだに俺の欠片を埋め込む。そうして俺たちは少しずつ俺たちを失い、バラバラになって俺たちになるんだ。俺は愛の為に、ネクの為に傷つくことができる。血を流すことができる。痛いのはつらくて苦しくて怖い。だけど、俺はネクの為にそれができる。それを示すことができる。関わる、ということは壊すということだ。愛する、ということは壊すということだ。君の為に喜んで傷をつくろう、血を流そう、苦しくて怖くて仕方がないけど俺は君の為ならなんでもできる。君に触れることは苦しくて怖い。だけど、君がひとりで泣いているよりもいいと思った。君がひとりで泣いているよりもずっとずっといいと思った。君のことが大好きだから。なによりも大切で特別で大好きだから。君に降りかかる厄災すべてを引き受けよう。手が触れる。あたたかい、と思った。ネクは俺のすべて。俺のすべてはネクの為にある。空っぽの俺に名前をくれた。たくさんのあたたかさを教えてくれた。俺をきれいで素敵なもので満たしてくれた。俺はずっと幸せだった。君と一緒にいられてずっとずっと幸せだった。俺の世界には幸せだけがあった。これからも幸せだ。どうか、ネクのこれからのすべてが幸せで穏やかでありますように。俺は心からそう願う。
やっぱりひとりは不安で寂しい。ネクのことを考える。大丈夫、きっと大丈夫だよ。優しくてあたたかいネクの声を思いだす。あたたかさに包まれる。まぶたが重くて仕方がない。ここまま眠りたいと思った。
大好きな世界、大好きなネク。さようなら、またね。 ネク、俺はまだ君に会いたいと願っている。
カイム、言ったでしょう?この世界はあなたの為につくったの。私がカイムと一緒にいるためにつくった。ひとりぼっちで泣いていたあなたを抱きしめて、涙をぬぐって、それでもう大丈夫だよって、これからはずっと側にいるよって。その為にこの世界をつくったの。その為に私はいるの。私をバラバラにするのは、痛くて苦しくて怖かった。けど、だけど、あなたがひとりで泣いているよりも、ずっといいと思った。もう泣かないでって声をかけて、大丈夫になるまで側にいたかったの。私たちはどうしようもなくバラバラよ。だけど、だから私たちは一緒にいられるの。それがどれだけ怖くてつらいことだとしても、私たちは、私はあなたと一緒にいたい。私はカイムのことが大好きだから。どうしようもなく大切で特別で大好きだから。だから、私は何度でもカイムに会いに行くわ。私は何回だってカイムに出会いたい。私はカイムとずっと一緒にいたい。大丈夫、きっと大丈夫よ。覚えている?あなたが私に何回も言ってくれた言葉。どんなに不安で苦しくて怖くても、あなたがその言葉をくれれば、いいえ、違うわね。カイム、あなたがいてくれればそれで全部大丈夫なの。全部、全部どうでもいい、本当にどうでもいい些細なことになるの。カイム、私はあなたのことが大好き。愛するということは壊すということ。カイム、私はあなたの為に何回だって私をバラバラにして世界を作りかえるわ。だからあなたの好きなものを教えて?なにを感じて考えているのか、あなたの全部を教えて欲しいの。
カイム、私はまたあなたに会いたいと願っている。
だってまだ話したいことが、知りたいことがたくさんあるの。